新潟家庭裁判所高田支部 平成元年(少)1229号 決定 1989年10月23日
少年 A(昭○.○.○生)
主文
少年を教護院に送致する。
少年に対し、教護院入所の日から向う1年間の間に通算90日間を限度として、強制的措置をとることができる。
理由
(非行事実)
少年は、
第1 中学3年生であるが、平成元年8月の夏休み以降、無断外泊、無免許運転、家内金銭持出し、暴力団事務所への出入り等の非行行動が激化し、同年9月からは中学校に一日しか登校せず、新潟県○○児童相談所の呼出しにも全く応ぜず、保護者に上記児童相談所へ連れて行かれたり学校に登校するよう言われるのを嫌つてほとんど家庭に寄り附かない状態であり、家庭内に置いてあつた現金60万円を持出したり、富山県内のバイク改造集団への接近もあり、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄り附かず、このまま放置すれば、その性格及び環境に照らして、近い将来刑罰法令に触れる行為をするおそれがある。
第2 公安委員会の運転免許を受けないで、平成元年9月15日午前11時5分ころ、富山県下新川郡○○町××番地付近道路において、原動機付自転車を運転した
ものである。
(法令の適用)
第1の事実につき 少年法3条1項3号イ、ロ
第2の事実につき 道路交通法118条1項1号、64条
(処遇の理由)
1 少年は、昭和55年5月(当時5歳、保育園在園中)、保母から落ち着きのなさを指摘されたため、保護者が新潟県○○児童相談所に相談し、同年6月11日同児童相談所から保護者と少年の接触を増やすよう助言、指導を受けた。しかし、少年は、小学校入学後、小学3年生ころまでは何とか授業についていけたものの、その後は登校しても教室できちんと授業を受けられず、校長室に出入りするなど校内徘徊を繰り返し、時には級友の金員を窃取するなどの問題行動を頻発したことから、昭和61年6月(当時小学6年生)、行動観察のため、上記児童相談所に一時保護(同月16日から同月21日まで6日間)された。その後、少年は、昭和62年4月、中学校に入学したが、同年5月下旬、同級生と二回にわたり賽銭盗を犯し、同年6月17日上記児童相談所に通告されたことなどから、行動観察と判定のため、同年6月26日から同年7月11日までの間、同児童相談所に一時保護され、同年9月30日付けで児童福祉司指導措置となつた。しかし、少年の行動傾向は改善されず、昭和63年9月(当時中学2年生)の二学期開始後約3か月間にわたつて不登校を続け、三学期から登校したものの、校内徘徊などの問題行動は相変わらず続き、さらに、平成元年8月(中学3年生時)の夏休み以降は、暴力団関係者と交際するようになり、また、原動機付自転車や普通車の無免許運転を繰り返し(この間の原動機付自転車の無免許運転が本件第2の非行である。)、同年9月12日ころには父親の実家の金庫から現金60万円を持出してゲーム代、スナツクでの飲食遊興費等に費消するなど非行行動を激化させ、その一方で、二学期になつて中学校に登校したのは一日だけであり、保護者には無断で外泊を重ね、上記児童相談所の呼出しにも全く応じない状態になり、本件各非行を犯すに至つたため、同年9月25日、同児童相談所長から児童福祉法27条1項4号の規定により送致されるに至つたものである。
2 少年は、幼少のころから、仕事に忙しかつた両親(父親は運転手、後に食品会社の営業担当。母親は少年の父親の実家が営む民宿業の手伝い。)に構つてもらえなかつたこともあつて、愛情欲求や依存欲求が満たされておらず、そのために不安や恐れを抱きがちで、情緒面での不安定さが顕著である。そして、常にまわりとなんらかの接触があることを確認していないと不安になつてしまうので、まわりのどのような剌激にも敏感に反応しがちであるし、自分を抑えて我慢するとか待つといつたこともできないので、活動性の高さと相まつて落ち着きがなく、多動傾向がある。
また、少年は、社会的にも精神的にも発達が遅れていて人格的に未熟な状態に形成されてきており、幼児的な自己中心性が強く、周囲の人のことや自分の置かれた状況といつたものに無頓着であり、自分の思うままに行動してしまうが、その一方で自己の承認欲求は強い。
3 少年の知能は中の下程度であるが、ものの捉え方が感覚的で客観性に欠け、集中力や持続力がなく、まわりの刺激を吟味したうえで判断したり、反応していくことができないので、短絡的な形でしか問題解決をはかることができない。また、学力や知識の習得の程度は、小学校低学年程度である。
4 以上のような本件各非行に至つた経緯、少年の現在の行動状況、少年の性格、知能程度等を総合して検討すると、少年が現在の状況のまま帰宅しても正常な学校生活を送ることができるとは思われず、少年の人格的な未熟さや逸脱行動の活発化に加えて、保護者は少年の指導に自信を失つており、少年の問題性は児童相談所や保護者の指導でまかなえる限度をこえているといわざるを得ない現状などを考慮すると、この際、少年を施設に収容し、人格面の発達を促すことを中心に、家庭的な雰囲気の中で愛情欲求や承認欲求を満たしながら、社会的な枠組みに沿つて行動していけるように教育していくことが必要である。そして、少年が中学3年生であること、本件各非行の程度、家庭的な雰囲気の中できめ細かな働きかけをしていくことが必要であることなどを考慮すると、少年を教護院に収容することが適当である。
また、少年の前記性格、行状、活動性の高さ、非行状況などを考慮すると、教護効果を上げるためには、場合により、強制的措置をとることが必要であると認められ、その期間としては、教護院入所の日から向う1年間の間に通算90日間を限度とすることが相当である。(なお、本件は、少年法6条3項、18条2項による強制的措置許可申請事件ではないが、本件のように、裁判所が、調査、審判手続を経て、教護院送致が適当であると考え、かつ少年の行状、性格、活動性の高さ等に鑑みて、教護効果を上げるためには強制的措置をとることが必要であると認めた場合にも、同法6条3項の規定による送致を待たなければならないとすると、少年に対し当然予想される事態に臨機応変に対処できず、少年の適切な保護を図ることができなくなるものと言わざるを得ない。そして、少年法6条3項の主な趣旨は、児童福祉法の適用のある要保護少年に対し、その行動の自由を制限し、またはその自由を奪うような強制的措置を必要とする場合、行政機関の独自の判断に任せることは少年の人権保護上適当でないとして、その当否について司法機関による判断を要することにしたことにあると解されるから、裁判所が審判の結果、少年に対し強制的措置を要すると判断した場合には司法判断を経ているのであるから、同条項による場合以外であつても、強制的措置許可決定をすることが許される場合があると解することは可能である。本件第1の非行は児童相談所長からの、本件第2の非行は検察官からの、各送致事件であり、調査の結果によれば、少年が教護院送致となつた場合の受入れ先として、強制的措置をとり得る国立武蔵野学院が予定されているが、同教護院の職員からは180日間程度の強制的措置があれば少年の処遇がしやすい旨の回答を得ていること、また、前記児童相談所の職員も、同教護院に収容するのであれば90日間程度の強制的措置が必要である旨の意見を述べていることがそれぞれ認められ、さらに、審判にも同児童相談所の職員が出席して、教護院送致の場合であれば強制的措置がなければ少年の処遇は困難である旨意見を述べており、このような場合には、主文のとおりの決定をしても同条項の趣旨に反するおそれはないと考える。)
よつて、少年法24条1項2号により、主文のとおり決定する。
(裁判官 伊東一廣)
〔参考〕
上越児相718号
平成1年9月25日
送致書
新潟家庭裁判所高田支部長 殿
平成1年9月22日
(住所)新潟県上越市□□××
(職業又は身分)新潟県○○児童相談所長
送致者 B
当51年
次の少年を児童福祉法第27条1項4号により送致します。
少年
保護者
氏名
年令
A
昭和○年○月○日生
C
当36年
職業
青海町立a中学3年
レストラン○○調理師
住居
新潟県西頸城郡◎◎町△△××
少年に同じ
本籍
富山県下新川郡◎◎町△△
審判に付すべき事由
少年は昭和55年5月に学校内での集団不適応と言う訴えで相談受理以来、当所での指導を行ってきたが、小学校在学時は教室にほとんど入れず、用務員室、校長室で小学校生活をすごした、小学校時代に保育所の冷蔵庫の中の食料品を盗んだり、教室内で現金盗、女子学童にたいする恐喝など問題をおこしていた、又昭和62年5月には賽銭箱より現金12,500円を盗み糸魚川警察より当所あて通告を受けている、中学入学後断続的不登校状態となり、登校しても校内徘徊、授業妨害が見られる様になり、昭和62年7月6日より当所にて一時保護するも行動改善はあまりみられなかった、昭和62年9月30日付け児童福祉司指導措置をとり、継続して指導をしてきた、平成1年4月から、毎週1回通所指導を実施し、一時行動に落ち着きが見られてきたが、夏休みを境に、無断外泊、無免許運転、家内金銭持出し、また暴力団事務所への出入等非行行動が激化してきている、特に、9月からは全く登校せず、9月17日無免許運転の現行犯で調べを受けて以後、正当な親の監護にも全く服そうとせず、当所の呼出しにも全く来所しようとしない、また、保護者が児童相談所に連れていこうとしたり、学校に登校するよう言われるのを嫌い、殆ど家庭によりつかない状態であり、非行行動を深化させ、家庭内に置いてあった店の現金60万を持出すにいたっいる。また、富山県内のバイク改造集団への接近もある、よって児童福祉法27条1項4号により送致する。
少年の保護に関する意見
少年の虞犯性は極めて高く、また保護者の正当な監護にも服そうとしない性癖から、この状態を放置できない状態にあり、当所の指導にも応じようとしない、よって身柄収容の上鑑別診断願いたい。